第153回 三田図書館・情報学会 月例会 参加記録
三田図書館・情報学会の月例会に参加してきました。
記録を残しておこうと思います。完全な記録ではなく、当日の自分のメモ書きをある程度整えた程度だとご理解ください。
2013年1月26日(土)
第153回 三田図書館・情報学会 月例会
http://www.mslis.jp/monthly.html
新しい学習環境の創造
千葉大学アカデミック・リンクと同志社大学ラーニング・コモンズ
千葉大学アカデミック・リンクの取り組みと直面する諸問題
竹内 比呂也先生(千葉大学附属図書館長 / アカデミック・リンク・センター長)
アカデミック・リンクとは
- 千葉大学が実践している図書館機能をベースにした新しい学習環境のコンセプト
- 研究開発機能を担う「アカデミック・リンク・センター」と実際にサービスを提供する「附属図書館」が中核となって推進
- 2011年4月1日 センター設置
- 2012年3月16日 図書館リニューアルオープン
アカデミック・リンクの根っこ
- 大学に対する社会的要請
- 学生のニーズ
- コンテンツの構築・提供、情報基盤、人的支援、学生のニーズに適した学習空間の統合
学生の目から見ると
- 「学び」に導く刺激に溢れた場所
- 学びの基盤としてのコンテンツ
- 人的サポート
空間の基本的考え方
- 解法性、透明性の高い空間
- 機能分化(静寂空間/討議空間)
- 利用における自由度が高い(N棟:机、椅子、ホワイトボードを自由に動かしてよい)
- 多様性の確保
- PC席も一人使用のみを想定しない
↓
- アクティブ・ラーニング・スペース
- グループ学習室(ガラスで囲いのある部屋)
- 一人で学習出来る学習エリア
- プレゼンテーションスペース
- ブックツリー(NDC分類とはちょっと違う配架)→ショートセミナーなどの主題と関連した書籍など
=様々な知的刺激を得られるような空間設計
コンテンツの提供の基本的考え方
- 学生が利用したいときに電子媒体でも印刷媒体でも迅速に入手できるようにする
- 電子か紙かという二択にはしたくない
- 図書館蔵書に拘らない、購入も一つの選択肢
- 書店をいれる
- 教材の作成支援も視野にいれる
↓
コンテンツとしては以下のようなものを想定
- 公刊された出版物に代表される著作物
- 著作物の一部を再パッケージ化した教材
- 授業録画
- 著作物の一部を利用して教員が独自に作成した教材
- 完全にオリジナル作成された教材
人的サポートの基本的考え方
- 学生、図書館員、教員によるハイブリッドな人的サポートをスタート
- 学生、図書館員、教員がどのような役割を担うべきか、試行錯誤的に追及
- 学習支援デスク(分野別学習相談)
- レファレンス・デスク
- オフィスアワー@アカデミック・リンク
現時点での評価
- 共用開始からおよそ10か月を経て、自由な学習空間、学習のためのコンテンツ、人的サポートを食い合わせるという新しい学習環境の枠組みはすでに出来上がりつつある
- 一番多い時期だとのべ4900名(ちなみに西千葉キャンパス全体の学部生は約9000名)
- 多くの学生があつまり、活発に利用
- 学内教職員が講師をつとめる「1210あかりんアワー」(昼休みの30分ショートセミナー)の定着
- スチューデントアシスタントによる学習支援
- 外部からも高い評価
- 中教審審議のまとめや答申において図書館の機能強化事例として取り上げられる
顕在化した問題
- 空間:ニーズに沿ったさらなる空間の整備
- アクティブ・ラーニング・スペースの拡張
- アクティブ・ラーニング・スペースの利用者がはみだしている現状がある
- 静寂空間の整備
- 住器などを個人学習向けに整備
- アクティブ・ラーニング・スペースの拡張
- コンテンツの整備と提供:図書の電子化、提供については想定以上に時間がかかっている
- 授業資料ナビ
- コンテンツを電子化するだけでは不十分
- 教育、学修における利用のための許諾が必要
- コースパック構築のために連絡しても回答の無い出版社もある
- 個別に許諾を得るのは経験的に非現実的であり、包括的な許諾が必要(膨大な時間と経費)
- 教育、学修における利用のための許諾が必要
- 人的サポート
- 現在はアカデミック・リンク・センターに所属する教員と図書館員が協力して、教育、学修と関わる様々なプロジェクトを立案し、実施している
- 業務課した場合の担い手は?
- 従来の事務職員として位置付けるのはその業務内容からいっても無理がある
- 教員として位置付けると教員としての評価(研究業績)に縛られる
- 中間的な専門職が制度的に必要ではないか
実現に向けて考えている事項1:教育との直接的リンク
- アカデミック・リンクによってもたらされた学生の行動の変化(とその見える化)が教員にも影響を与え始めている
- 教員「図書館への満足度が前回のよりも20%弱という大幅な改善を示している。自由に討論できる学習スペース、豊富な自習スペースが学生の満足度に結びついているようであり、学部としても図書館の利用と相乗するような教育プランを取り入れていきたい」
- そのような教員の変化の兆しを受けて、アカデミック・リンクとしてどのような形で教員へのサポートを実現していくか
- 教育との直接的なリンクの確立
事項2:調査研究
- 情報利用行動定点観測プロジェクト
- 空間の利用状況(工学研究科とも連携→映像を用いた更なる調査分析)
- 学習時間、学修場所、学習方法(質問紙調査の継続、質的調査の開始)
- 成績との関係
同支社大学の考えるラーニング・コモンズ像
井上 真琴さん(同支社大学 学修支援・教育開発センター事務長)
どのように提案し、何を狙いとしたか
- 教学再編とキャンパス再編計画
- キャンパスコンセプトの明確化
- 如何に見えるかという設計
- 同支社大学ではながい議論
- ラーニング・コモンズの提案(図書館・情報系部門から)
- 今出川キャンパス整備計画にLCを組み入れ(利用対象文系学部20000人)
- 中間案にはラーニングの仕掛けがなかった
- 狙いは、学生の「学びの質の向上」
- 大学の最終的な目的=学生の学びの質の向上
FDの目的=教員が変わる→学生の学びの質の向上(間接的関与)
↓
そうではなくて…
↓
FDの目的=学生の学びの質の向上→教員が変わる(直接的関与)
- 授業
- 教える(教育)←→学ぶ(学習)
- 授業デザイン
- unlearn=学びほぐし、学びほどき
運営の起点となる実践の蓄積
- 先行する三つの柱
- 課外プロジェクト活動とPBL科目実践の蓄積
- 初年次教育の浸透
- 共学IRの実践
- アクティブ・ラーニングと授業外学習時間の漸増
- グローバル30とグローバル30+
- 留学生の学修スタイルが学内で見える事で学生や教員の意識が変わる→グローバル30の意味や意義
どのような学習環境デザインか
- 空間のコンセプトとスキーム
- 面積:2550㎡
- 図書館とは別校舎
- 「知的欲望開発空間」が全体コンセプト
- 目標は主体的な学びの進展、授業外学習の「質」の転換
- 2フロアで構成(各フロアコンセプトの共鳴)
- 2f:クリエイティブコモンズ:学びの交流・啓発空間「学びのコミュニティ」の創出
- 3f:リサーチ・コモンズ:アカデミックスキル育成空間 チュータリング機能(学内初の学修支援組織)
- 空間のもつ性格
- 柔軟性
- 快適性
- 感覚刺激性
- サポートの存在
- 空間、空間内の物品、空間内の活動=「思考の道具」
- 運営主体は学習支援・教育開発センター
期待される効果
- プレゼンテーションがうまくなる事が目的ではない
- プレゼンテーションを通じて頭の構造を考える
- ノートの取り方がうまくなる事が目的ではない
- シラバスを読むとはどういう事か
- 「知のペーパードライバー」からの脱却
- Team Teachingによるコラボ体制
- 情報リテラシー体制・ラーニングコモンズ
千葉大学アカデミック・リンクの話は、2011年度あたりからすごく興味を持っていて、今まで何度も竹内先生のお話を聞く機会はあったのですが、本格的な実践がはじまってそろそろ1年経とうとしている中で新しい課題が段々見えてきているというお話は興味深かったです。当面は「コンテンツ」の充実にどう注力していくかという話が中心になっていくのかな?
ただ、アカデミック・リンク(あるいはラーニング・コモンズ)が図書館の中で展開されていく中で、図書館員自身もまた変わらざるを得ないという話に一番興味を惹かれました。アカデミック・リンクは図書館をどう変えていく事になるのでしょうね?
同志社大学のラーニング・コモンズはこの春から本格的にオープンという事で、一度は見学に行きたいと思っています。単純に設置されるだけでなく、きちんと理念や狙いが整理されて開設されるようなので、それが同志社大学の学生さんや先生方にどう受け止められるのかとても興味深いです。
またどこかで報告を聞ける機会があると良いんだけど…。